「生と死」の世界を往来する――豊島横尾館
1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカイブより」。今回は2013年に開館した豊島横尾館のためにアーティスト・横尾忠則氏が描いた作品「メランコリア」(2012年)を紹介します。
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横尾忠則氏のアート作品と、建築家・永山祐子氏の建築を融合した豊島横尾館は、豊島・家浦地区の民家を改修してつくられました。古民家のつくりを生かした「母屋」「倉」「納屋」の空間に横尾氏の平面作品11点が展示されています。敷地内には庭のインスタレーション、円筒形の塔の内部で展開される滝のインスタレーション、空間全体が鏡面で仕上げられたトイレのインスタレーションが配置されています。それぞれの空間での体験はコラージュのようにつながり、訪れる方は館の外と中を行ったり来たりしながら鑑賞します。
豊島横尾館のテーマは「生と死」。館の最後の空間である納屋に展示された「メランコリア」は、横尾氏が豊島横尾館のために2012年に描いた作品で、豊島に実在するY字路をモチーフにしています。
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以下の写真は2010年5月に豊島を訪れた横尾氏が家浦集落内の実際のY字路を撮影したものです。写真と前記の「メランコリア」を比較すると、豊島のY字路と「メランコリア」に共通する点、異なる点を見出すことができます。
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正面の石積みの塀と木の茂み、塀の右横に立つ電信柱などの要素は共通していますが、「メランコリア」のY字路の左右の道の先は海へとつながり、右奥には島のようなものが描かれています。この島は、横尾氏が豊島横尾館を構想する際にイメージの源にしたというスイスの画家、アーノルド・ベックリンの「死の島」(1880年)を思い起こさせます。作品の手前に描かれている木板は、豊島の民家で建材としてよく使われている焼杉(表面を焼き焦がした杉板)です。左端には、黒い壁と赤い線で構成された豊島横尾館の東側面のような壁が描かれています。
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横尾氏は実在する豊島の風景をモチーフとしながらも、現実にはない風景やフィクションを絵の中に描いています。「メランコリア」に見られるように、豊島横尾館全体が、現実と非現実、フィクションとノンフィクション、日常と非日常が入り混じる場所になっています。ご来館の際には、ぜひお客様ご自身でアーティストと建築家の数々の仕掛けによる「生と死」の世界の往来を体験してみてください。
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