夜を徹してつくられた継ぎ目のないコンクリート・シェル構造の屋根――豊島美術館
1980年代から活動するベネッセアートサイト直島の記録をブログで紹介する「アーカイブより」。今回は、2010年に開館した豊島美術館の建設プロセスの一部についてご紹介します。
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豊島美術館は豊島・唐櫃岡の棚田の一角にある美術館で、建築家・西沢立衛が設計した建物に、アーティスト・内藤礼の作品「母型」が恒久展示されています。水滴のような形をした建物は広さ約40×60m、最高高さ約4.5m、躯体の厚さ約25㎝のコンクリート・シェル構造※ で、屋根には二つの開口部が設けられています。
※シェル構造:貝殻のような曲面状の薄い板を用いた建築構造のこと。
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豊島美術館の構想は、福武財団名誉理事長(当時・直島福武美術館財団理事長)である福武總一郎の「建築・アート・環境が一体化した美術館をつくりたい」という思いから始まりました。西沢は福武の思いを受けて、建物が周囲の環境や地形と調和することを第一に考え、「人工的なオブジェクトでありながら、同時に丘のような自然さがあるもの」を目指しました。
西沢の考えるものを実現するためには、シェル構造の屋根を低くすること、屋根のコンクリートを薄くすることなど、様々な要件がありました。屋根の継ぎ目をなくすこともその一つです。コンクリートは打設作業を中断すると打ち継ぎ目地ができてしまうので、豊島美術館の屋根のコンクリートは一度に打設することになりました。作業は2010年3月11日の朝から始まり、翌12日の昼頃まで連続で行われました。
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休憩や人員交代を考慮し、現場には150人以上の作業員が配置されました。屋根に必要なコンクリート量は約600立米です。これに対して、2台のポンプ車を使って1時間に20~30立米を目安に打ち進めていきました。コンクリートを打ち終わったところから順に、左官工が手作業で表面を滑らかに仕上げます。傷がつかないよう、落ち葉にも気を配りながらの作業でした。
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打設の様子を見るため、現場周辺には島の方々が集まりました。夜を徹しての作業でしたが、現場を見に訪れる人が絶えることはありませんでした。すべての作業が完了すると、現場からは自然に拍手が沸いたといいます。
このようにして、豊島美術館の継ぎ目のない滑らかな屋根がつくられました。建物は存在感を放ちながらも周辺環境に調和し、「建築・アート・環境が一体化した美術館」が実現されています。豊島美術館を訪れた際にはぜひ、コンクリート・シェル構造の屋根にもご注目ください。
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